普段なら数週間で小説を読む私だが、『教団X』のなまなましくグロい描写と、容赦なく押し付けられるヘビーな現実に、心が折れそうになって何度も本を投げ捨てようと思ったのだが…
人は圧倒的なスケールの世界観に触れると、体がしびれるような衝撃を受けて、朝ご飯を食べている時も、デスクワークをしている時も、友人と話をしている時も“その世界観に引きずられてしまう”ものだ。
これが、『教団X』を私が禁断の書と呼ぶ一つ目の理由である。
ネタバレをしない程度にストーリーを説明すると、これは突然消えた彼女を探す男のラブストーリーであり、ある宗教団体の物語であり、貧困と飢えという現実への問題提起であり、人間の本質を極めて客観的に描いた哲学的小説…などという風に抽象的な表現しか不可能だ。
とにかく、非常に難しく、情報の密度が高い小説なので読んでいると、人によっては頭から湯気が出てくるかもしれないのである。
さらに、登場するキャラクターの中にとある教団の教祖がいるのだが、非常に面白い男で話にグイグイ引き込まれていってしまうので、話の先が気になってしょうがなくなってしまう。
2つ目の理由としては、性の描写が多いのだが、なかなかゆがんだ概念が開けっぴろげにねっとりと人間の醜さを映し出すので、そういうのに耐性がない人にとっては読むのが苦痛になるかもしれないということだ。
この部分に関しては、自己責任で読んでもらうしかない。
3つ目の理由としては、この『教団X』を読むことであなたの人生の価値観が変わってしまうかもしれないということだ。
宗教、政治、性、暴力、高潔さと醜さ、日本の不安定さなど、かなり深いところまで踏み込んでいるので、感受性豊かな方は人生観がガラッと変わってしまうかもしれない。
さて、私の場合はどうかというと、読んでいる間はかなり色々考えさせられ、実際の歴史上の事実をネットで検索したり、他の書籍を読みあさったりした。
特に死生観については、今までよりも深く考えるようになったと思う。
しかし、この引力の強い文章をくぐり抜けて、ラストにたどり着いた時に、「自分が生きていてもいいんだ」という肯定感に包まれるので、ぜひ、めげずに最後まで読破して欲しい一冊だ。
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